中古住宅購入の際にも確認するべきポイント

中古住宅をご購入されるお客様から、建物のひび割れや傾きについて、その原因とそれに係る修繕の必要性に関するご質問がありました。中古住宅は新築とは異なり、建物の経年変化した部分を確認することも重要です。中古住宅購入の際の確認ポイントとしても、ぜひご活用ください。

 

基礎のひび割れは経年変化によるものか、補修の必要性は?

一般的には、築10年を経過してくると、外壁や基礎、屋根の塗装面、シーリング材の経年損耗が始まります。基礎内部のひび割れは、単純な経年というよりは建設時からの地盤の変動(建物の荷重による自然沈下)や、地震による建物の揺れなどで生じることが多いです。特に大きな地震が発生し建物が大きく揺れた場合には、ひび割れが生じることが多くあります。また、※ヘアクラック(注1)などの微細なひび割れは、コンクリートの乾燥収縮や外気の大きな温度変化などでも生じることがあります。

 

注1:ヘアクラック

ヘアクラックとは、建物の壁に生じるひび割れの一種で、比較的規模の小さいもののことを指します

 

国土交通省のガイドラインでは、指摘対象とするひび割れを「幅0.5mm以上、または深さ20mm以上」、日本建築学会の基準では許容できるひび割れを「屋外側で0.3mm、屋内側で0.5mm」としています。時間経過により、ひび割れの箇所が増えたり幅が広がったりする場合には、基礎の補修(いろいろな工法があります)が必要となることもあります。

 

ひび割れが問題となるケースは…

“建物の経年変化はどの物件にも起こりうる”とまで言うのは語弊がありますが、相応の築年数の建物の基礎に、軽微なひび割れがあるのは決して珍しいことではありません。建築時からある程度の時間経過があると、大きめの地震や構造に影響しないレベルの自然沈下などがあるのが普通です。これに伴う軽微なひび割れは、“確率的には生じることがある”と考えるのが一般的です。

 

ひび割れが問題となりうるケースとしては、

  • 新築時すぐから発生している
  • 大きな地震の被災を受けた建物が傾斜している
  • ひび割れ箇所数が多すぎる
  • 鉄筋が露出している・コンクリートが欠けている
  • 光や雨風が通るくらい開いている

などです。

 

構造劣化につながるような基礎本体の不具合の原因として、そのひび割れが該当するか否かが判断の目安になります。

 

建物の傾きは経年変化による場合も

建物の調査では、実際の床の高さをレーザーレベルで計測し、その測定点の高低差の最も大きい箇所を距離で除して勾配値を算定しています。床や壁の仕上がりについては、元々の材料の歪みやたわみによる傾きが避けられないため、国交省のガイドラインでは「床では概ね3m、壁では概ね2mの間の距離の傾き」を計測することと規定されています。数値は、「瑕疵の潜在的な可能性が 6/1000を超えると高くなる」との国交省のガイドラインの基準に基づいており、勾配値が 6/1000を超えているかが傾きの判定基準となります。

床の傾斜については、建物全体の傾斜というよりは床張りの施工誤差の範囲もあるかと思われます。特に小上がりなどの畳床は、フローリングなどの板材よりも水平誤差が大きくなります。また、建物の2階では、経年による梁や床(下地)材のたわみにより、1階よりも変動値が大きくなることがあります。

壁の垂直に対する傾きでは、木造の場合、構造的には垂直であっても、下地の柱の反りやねじれ、壁ボードのたわみ、浮きなどを拾ってしまうことがあります。当社では、6/1000を超える箇所が確認できた場合、同じ面で近くの複数箇所を測定し、その1箇所のみの変位かまたは壁全体に傾きが生じているかを判断しています。少数箇所の3~4/1000の傾きについては、築年経過の建物では比較的見られる範囲ですので、ご心配はないと考えられます。

 

外壁、シーリング、屋根の経年変化も確認が必要

シーリングや塗装面については、どのような建物であっても概ね10~15年程度で経年による損耗や劣化が生じてきます。表面の劣化や撥水性能が低下した状態で長期間放置した場合、雨水の染み込みなどで材料本体が傷むこともあります。現在は問題がなくても、この期間を目安に外回りの塗装やシーリングの改修を行うのが望ましいです。

シーリング剥離の補修方法としては、シーリング充填が一般的かと思います。またシーリング材自体の寿命も数年~10数年程度です。完全に保護性能が無くなる前に上塗り(トップコートといいます)をすれば防水性能の低下の心配はなくなります。爪を立てて柔軟性がなくなりカチカチになっていれば、材料の寿命のため、早急に打ち替えや打ち増しをしたほうが建物の寿命を延ばすことができます。費用については、塗装のグレードや範囲、シーリングまで打ち替えるかなどによりますが、100万弱~200万円台前半の範囲になるのではないかと思います。

 

築10年を迎える前にぜひ、ご確認を

築10年ほど経てば、大抵の場合は建物も地盤も落ち着いてくるので、一般的には基礎も安定してくると思います。ただし、地震動による建物への外力や地盤の変形は避けられません。定期的に、または大きな地震のあとなどに、基礎のひび割れが増えていないか広がっていないか、などを確認することはとても有用です。

建物全体が傾く、または崩壊するなどの大きな破損がなければ、現在は基礎の補修工法も多種ありますので、補修・補強で強度を維持することは可能です。基礎の破損が他の部位に影響する前に対策できれば建物の寿命は大きく伸ばせると思います。

 

住宅診断をご希望の方は、ぜひ当社にお問い合わせください。

 

 

菅野 武 Kanno Takeshi

一級建築士/既存住宅状況調査技術者/JSHI公認ホームインスペクター/AJIHA登録ハウスインスペクター/FLAT35適合証明技術者/建築物石綿含有建材調査者/古民家鑑定士/古材鑑定士/建築物環境衛生管理技術者/被災建築物被災度区分判定・復旧技術者/耐震診断技術者/耐震改修技術者/住宅省エネルギー技術者/防火対象物点検資格者/雨漏り診断士/防災士/ADR調停人候補者資格者

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