住宅、建物の不具合の修理復旧や損害の補償を相手の会社に求めた際、誠意をもって対応してくれれば、それに越したことはありません。ですが、工務店や建築会社と意見が対立したまま、話が平行線をたどり、どこに相談しても具体的な対応をしてもらえずに、当社にやってくる方も多数おられます。
そこで、建築に関連する法律手続き(調停や訴訟)となった場合、私の経験からではありますが、何点か重要なポイントについてご説明します。
弁護士や裁判官は○法律のプロ。✕建築のプロではない。
建築関連の係争は、技術的な専門性が高いため、弁護士や裁判官などの法曹関係者が状況を把握・理解するのにかなり時間がかかる傾向があります。
仮に裁判や調停を行う場合は、私は以下の流れを念頭に、弁護士等と調整を進めていることが多いです。すべての案件に当てはまるとは言えませんが、ご参考に記載します。
【解決に向けた手順と流れ】
1. 問題点の整理
技術的・物理的な障害や問題と、感情・心情的な部分を切り分ける。
→「辛い思いをした」「迷惑を被った」と主張される方も多いのですが、裁判等の場合は、通常は事実関係や法令等が優先されるので、物の(不具合)事象と心情を分けて考えたほうが、争点の構築がスムーズとなります。
※損害の確定の際にも重要な点になります(後述)。
2. 実際の被害や不具合の状況確認
建物に生じている不具合や被害、問題点の洗い出しを行います。
3. 不具合の原因の特定
不具合を起こしている原因や理由を「技術的」に推測、または判断していきます。
事象によっては原因が特定できないケースもあるので、その調査や原因の確認自体を相手側に要求することもあります。
ここまでが概ね第 1 段階です。
4. 不具合の発生の確定
ここが肝になることも多いのですが、不具合があることを(第三者も含めて)客観的に認めさせること、が第2段階に相当します。
案件によっては、相手側が不具合の存在を認めないケースや、「一般的によくあること」などと言って問題のすり替えや矮小化を主張してくることもよくあります。
5. 責任の所在の追求
不具合の「原因」の責任を詰めていきます。
論点としては、その不具合や原因箇所の施工に対して
(1)不具合が生じる予見・想定が可能であったか?
(2)可能であったが対策を怠る、または不足していたか?
(3)対策に不備はなかったが、想定以上の要因があったか?
となります。
ただし建築の場合、予見や想定の範囲が広く、使い方や土地・立地、施工者や地域によるばらつきも大きいため、どこまでが「一般的・通常の範囲」となるかが、判断が難しい傾向があります。
どこまでを「一般的・通常の範囲」とするか、判断の基準や優先順位としては、
(1)法令・条例など
(2)公的または公的要素の高い技術基準(住宅金融支援機構や建築学会などの仕様書)
(3)材料メーカー等の技術基準や仕様書(メーカーの仕様通りに施工していない、とよく抗弁に使います)
(4)施工上の一般的な慣例・通例など(地域性や感覚で統一性が低いので、いろいろ補足資料も必要)
になるかと思います。
また、契約書や約款の記載内容によっても遵守すべき範囲が変わったりするので、民法上の判断も非常に重要です。
特に2020年の民法改正で、「瑕疵」ではなく「契約不適合責任」の概念が導入されたため、建築の裁判の判断や事例の取り扱いが今までと変わってくることも想定が必要となっています。
6. 損害の確定
不具合の内容や被害・損害がある程度確定した時点で、損害の想定額をまとめていきます。
あくまでもこちらが主張する金額の根拠となるものですが、
(1)不具合を修繕・是正するために必要な費用(工事費など)
(2)不具合により目的が果たせず、代替のためにかかった費用(仮住まい費、代替物の賃貸・購入費など)
(3)不具合の解消のために必要な作業を行った各種費用(調査費、通信交通費など)
(4)不具合により生じた直接的な損害の補填費(汚損による清掃や代替物の購入費、営業保証など)
(5)訴訟費用 ※弁護士費用は不法行為でない場合、相手側に請求できないようです。
(6)その他
※精神的な損害(いわゆる慰謝料的な要素)については、請求は可能なようですが認められるケースは極めて少ないと思われます。
建物の不具合により怪我や疾病が生じた場合や、裁判の当事者以外の第三者に被害が生じた場合など、心情以外に+αの大きな実害があるケースでないと難しいかもしれません。
心情や感情については客観的な判断が難しく、実際の金銭に置き換える基準もないためと思います。
(技術面と心情面を最初に分けて考えるべき、最大の理由でもあります)
だいたいこれらの条件整理や抗弁が終わった時点で、やっと判決に向かう感じです。
いきなり裁判ではなく、調停から始めるときも、途中で裁判を取り下げて和解となることも多々あります。
案件によっていろいろな状況が予想されますが、大体この流れで争点を組み立てて行くことが多いです。
以下、ご質問いただいた例です。
Q①損害賠償とは、何が該当になりますか?
建築トラブルによる精神的なストレスや実際にかかった費用(原因究明にかかった調査費用や補修費用等)は対象になる?
A①前述の通り、工事費や諸々の関連購入費、調査費などの実対策費用は、損害に計上することが可能かと思います。また、建物や設備を使用できなかったことによる実損(仮住まい費や他人に貸していた場合の賃貸費など)も計上は可能なはずです。ただし、事業用施設でない限り、営業保証は NGです。ストレスなども金銭に換算できる部分(例.ストレスで心療内科にかかった等)以外の実計上は難しいと思います。※請求は可能でも認められる可能性が低い、という意味です。
Q②弁護士さんの費用の相場は?
A②損害額に対するパーセンテージで決めていることが多いようです(弁護士報酬規定があります)。損害額が大きくなると、弁護士報酬も増えていく傾向があります。
調停から始めるか、いきなり訴訟を起こすかでも費用は異なるかと思います。弁護士によっても費用の幅はあるようです。
本当にアバウトですが、多くの事例では数十万~100 数十万の間ではないでしょうか。
Q③思いもよらず新築住宅なのに不具合が発生。勝訴できるか?見込みは?
A③訴訟の前に、調停から、という選択肢もあります。
話し合いが完全に決裂した場合に訴訟になるかと思うのですが、新築住宅の場合、10 年間は瑕疵担保責任の期間になるので、その間の施工業者との関係性もどの様に考えるか、判断材料の一つになると思います。雨水の浸入や構造に瑕疵が起きた場合、その事実は揺らがないので、最後は、諸々の費用負担の範囲が争点になると思います。100%勝訴という概念よりは、費用をどこまで負担してもらえるか、が裁判の結果になるのではないかと考えます。
Q④決着するまでの時間は、どのくらいを想定?
A④おそらくですが、調停で数ヶ月から 1 年、裁判だと 2 年以上かかることも珍しくありません。和解にならない限り、裁判が数ヶ月で終わることはないかと思います。(裁判は想像以上に時間がかかります。私の場合も、2~3 年継続して裁判のお手伝いをしているケースは珍しくありません。)
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菅野 武 Kanno Takeshi
一級建築士/既存住宅状況調査技術者/JSHI公認ホームインスペクター/AJIHA登録ハウスインスペクター/FLAT35適合証明技術者/建築物石綿含有建材調査者/古民家鑑定士/古材鑑定士/建築物環境衛生管理技術者/被災建築物被災度区分判定・復旧技術者/耐震診断技術者/耐震改修技術者/住宅省エネルギー技術者/防火対象物点検資格者/雨漏り診断士/防災士/ADR調停人候補者資格